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大阪高等裁判所 昭和32年(ラ)32号 決定 1960年1月14日

抗告人 稲村昌義(仮名)

相手方 稲村ふみ(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は、原審判を取り消し、相手方は抗告人と同居すべき旨の審判を求め、その理由として、

一、まず原裁判所が、相手方の実妹である浅井安子および抗告人と相手方との間の実子ではあるが母親たる相手方に好意を有する稲村文子の供述内容を基礎として原審判をしたのは違法である。

と主張する。

しかし、原裁判所は、抗告人の主張するように、右浅井安子および稲村文子に対する各審問の結果のみに基いて原審判をしたわけではなく、本件同居請求調停申立事件の調停の経過、抗告人と相手方との間の離婚調停申立事件(奈良家庭裁判所昭和二九年(家イ)第二六九号第二七〇号事件)の調停の経過、家庭裁判所調査官松本義昭、同片田謹吾の各調査の結果に右安子および文子の両人に対する各審問の結果を綜合して、原審判理由に摘示する事実を認定し、これに基いて原審判をしたものであることは、原審判の理由の記載および関係書類に徴して明らかである。従つて、抗告人の右主張は理由がない。

二、つぎに、原審判は、夫婦の一方に不貞行為があつても、双方の愛情が冷却している以上、別居が相当であるという立場に立つようであるが、夫婦同居の基礎は双方間の道徳的基礎に立つ愛情により育成すべきが相当であるから原審判は不当である、と主張する。

しかし、夫婦が互に同居すべき義務を有するのは、もとよりなお、正常な夫婦関係の期待できる場合にかぎられ、たとえ法律上夫婦たる形式はそなえていても、離婚等をめぐつて夫婦間で抗争すること数年に及び夫婦としての情愛を失い、夫婦関係は全く破綻して、夫婦たるの実を失うに至つているような場合には、これに同居を命じてみても、円満な夫婦生活を期待することはできず、かえつて両者それぞれの日常生活を危くするおそれを招くばかりであるから、かような場合には、夫婦の一方は他方に対して同居を請求することができないものといわなければならない。そして、抗告人と相手方との関係が右のような場合に該当することは、本件記録中の関係資料ならびに当審における抗告人および相手方の各審尋の結果に徴して明らかであるから、抗告人のこの点に関する主張も理由がない。

その他記録を精査しても、原審判を取り消すべき事由は存しないから、本件抗告は理由がないものとして棄却すべきである。

そこで、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 沢栄三 判事 木下忠良 判事 寺田治郎)

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